新教出版社
立教女学院短期大学では、毎年秋に、東京都杉並区教育委員会の後援を得て、専任教員による公開講座を開催しているが、1989年度には七つの一般講座の他に二つのシリーズ講座を儲けた。このシリーズには学外の識者の方々のご協力を仰いだが、その一つが五回にわたる『天皇制を考える』という講座であった。
私たちが公開講座にあえてこのテーマでのシリーズ講座を設置したい、いや、しなければ、という思いを抱くようになった直接の動機は、1989年1月7日の「昭和天皇」の逝去とそれに伴って政府が行った元号の改元、そして、1990年秋に予定された新天皇の「即位の礼」と「大嘗祭」である。
日本の社会や文化を理解し日本国の将来を展望するにあたって天皇制の歴史を無視できないことは、多くの学者の指摘をまつまでもなく、自明のことであろ。ゆえに日本人は、どのような信仰・信念・思想をもとうが、日本人として生きてゆく限り、天皇制とそれにまつわる問題に無関心であることは許されないのではあるまいか。とりわけ、現今、5月3日よりも2月11日の方を盛大に祝う風潮を助長したり、国家的象徴の名のもとに人為的に国民意識を形成統合しようとする言動がわが国の各界指導者層の一部にみられるが、そうした動きの底流には、近代天皇制を生み出したどす黒い不気味なものが再び頭を持ち上げ始めているように思われてならない。
こうした危機意識から私たちは天皇制について真剣に考える手始めとしてこの公開講座に踏み切ったのである。
著者・訳者など:
ISBN:4-40041530-9
JAN:9784400000000