出版社・製造元:(取次)新潮社
「永遠の同伴者イエス」――。
著者の信仰の種が成長し円熟し、評伝の形で鮮かに開花した。
英語、イタリア語、中国語にも翻訳され、広い読者を獲得した作品。
英雄的でもなく、美しくもなく、人々の誤解と嘲りのなかで死んでいったイエス。裏切られ、見棄てられ、犬の死よりもさらにみじめに斃れたイエス。彼はなぜ十字架の上で殺されなければならなかったのか?
――幼くしてカトリックの洗礼を受け、神なき国の信徒として長年苦しんできた著者が、過去に書かれたあらゆる「イエス伝」をふまえて甦らせた、イエスの〈生〉の真実。
著者の言葉
私はこのイエス像がそのすべてに触れたなど少しも思ってはおらぬ。聖なるものを表記することは小説家にはできぬ。私はイエスの人間的生涯の表面にふれたにすぎぬ。ただ日本人である私がふれたイエス像が基督(キリスト)教に無縁だった読者にも少くとも実感をもって理解して頂けるものであったならば、この仕事は無駄ではなかったような気がする。(「あとがき」)
本書「解説」より
「新約聖書」の中に、キリストの弟子パウロがローマの教会に宛てた手紙がおさめられているが、そこに次のような一節がある。
「喜ぶ者と共に喜び、泣く者と共に泣きなさい」
この共にという言葉にこそ、弟子たちがアガペーというギリシャ語でよんだ、キリスト教的愛の精髄がこめられているのである。とすれば、遠藤氏がイエスを「永遠の同伴者」としてとらえ、その視座からイエスの全生涯をとらえたということは、神学的にいってもまことに正統的な立場であるといわざるをえないであろう。
――井上洋治(カトリック司祭)
遠藤周作(1923-1996)
東京生まれ。幼年期を旧満州大連で過ごす。神戸に帰国後、12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶応大学仏文科卒。フランス留学を経て1955年「白い人」で芥川賞を受賞。結核を患い何度も手術を受けながらも、旺盛な執筆活動を続けた。一貫して日本の精神風土とキリスト教の問題を追究する一方、ユーモア作品や歴史小説、戯曲、映画脚本、〈狐狸庵もの〉と称されるエッセイなど作品世界は多岐にわたる。『海と毒薬』(新潮社文学賞/毎日出版文化賞)『わたしが・棄てた・女』『沈黙』(谷崎潤一郎賞)『死海のほとり』『イエスの生涯』『キリストの誕生』(読売文学賞)『侍』(野間文芸賞)『女の一生』『スキャンダル』『深い河(ディープ・リバー)』(毎日芸術賞)『夫婦の一日』等。1995年には文化勲章を受章した。
著者・訳者など:遠藤周作
ISBN:4-10112316-0
JAN:9784100000000